“自分のため”から“チームのため”へ……中村比菜が5年間のRQ生活で変わった心境と名門SARDへの想い

 今シーズン、サーキットに登場するレースクイーンに迫る「RQインタビュー」。第17回は、2021年でレースクイーン卒業を発表した中村比菜チャンが登場。5年間のレースクイーン活動で感じた想いとは?
 
 

RQインタビュー 2021 Vol.17 中村比菜

Text:Yoshita Tomohiro
Photo:Tabuchi Satoru
 
 今シーズンもスーパーGTの舞台でレースクイーンとして活躍中の中村比菜さん。デビューイヤーからD’stationフレッシュエンジェルズのメンバーを務め、今ではTGR TEAM SARDを応援するKOBELCO GIRLSの“顔”として定着している。
 
 スーパーGT最終戦前に自身のTwitterで今シーズン限りでのレースクイーン卒業を発表。レースクイーンとして最後のサーキットを笑顔と涙で終えた。
 

2019年からKOBELCO GIRLSを務める中村比菜チャン

2019年からKOBELCO GIRLSを務める中村比菜チャン


  
 この5年間は、“自分のために頑張る”ということから“チームのため、仲間のために何かをしたい”と様々な心境の変化があったようだ。
 
 もともとは、プロ野球の横浜DeNAベイスターズでチアリーダーとして活躍していた中村さん。コンパニオンとして出演した東京オートサロンで“歌って踊れるレースクイーン”を見たのが、レースクイーンデビューの最初のきっかけだったという。
 
「サーキットでも、歌って踊れるアイドルがいるというのを、東京オートサロンの時に初めて知りました。レースクイーンになると、地方に行って歌って踊ることができるので素敵だなと思いました。レースクイーンになりたいというよりは、そういうお仕事がしたかったので、オーディションを受けました」
 
「アイドル志望みたいな感じではあるんですけど、“応援すること”も大好きなので、チアリーダーの時もベイスターズを本気で応援していました。モータースポーツもそういうところが似ているなと思いました」
 
“歌って踊れるレースクイーン”を目指した中村さん。早速オーディションに挑戦し、見事合格したのがRQ界でトップユニットとして知られているD’stationフレッシュエンジェルズだった。
 
「当時のフレエン(フレッシュエンジェルズ)のメンバーは、レースクイーン大賞を獲る方たちばかりだったので、まだ新人で何の賞もとったことがない私が入れるとは思っていなかったんです。まさから1年目からフレエンになれるとは思いませんでした!」
 
 そう当時のことを振り返る中村さん。期待に膨らんだレースクイーンデビュー戦だったが、そこに待っていたのは“過酷な現実”だった。
 
「ベイスターズ時代と違って、レースクイーンひとりひとりのファンが多くて、その時は4人メンバーだったんですけど、私以外のメンバーは、個々のファンがすごく多かったんです。2日間を終えてサーキットを出るときに、みんなはファンからいただいた大量のお土産を持っているのに、私がもらえたのはチョコレートふたつだけでした」
 
「最初の頃はサーキット内で移動する際も、他の人たちはファンの人たちに囲まれているのに、私はひとりぼっちで歩いていました。それがあまりにもショックで……。私の初めてのサーキットの印象は、それに支配されていますね(苦笑)」
 
「あまりにも寂し過ぎて、『どなたか、面倒を見てくれませんか……?』みたいな感じで、1年目の時に“おひな隊”を結成したんですよ。そうしたら、徐々に応援してくれる人が増えて、初期の頃からの“おひな隊メンバー”が今もずっと応援してくれています」
 
 ファンが徐々に増えていき、2017年の日本レースクイーン大賞新人部門では準グランプリを獲得。さらに翌シーズンの日本レースクイーン大賞2018では、クリッカー賞と福岡アジアコレクション賞を獲得するなど、数々の実績を残していった。
 
 しかし、彼女自身の中では“いちばんを獲れなかった”という悔しさが全面に出ていた。
 
「新人部門の授賞式の時、準グランプリで名前が呼ばれた時は一気に血の気が引いていったのを覚えています。応援してくれた人たちに申し訳ないなと思いました。みんなが一生懸命『グランプリを獲ってほしい』と応援してくれていたので、それが叶わなかったのが悔しくて、悲しくて……」
 
「2年目の時もレースクイーン大賞の5人の中に入りたくて頑張っていました。結果、クリッカー賞と福岡アジアコレクション賞をいただくことはできたんですけど……その時の本音としてはすごく悔しかったです」
 
「それでクリッカー賞の表彰を受けて、ステージ上で『悔しい』って言ったら、まわりからすごく怒られました。“おひな隊”の人たちからもめちゃくちゃ怒られて『クリッカー賞に選んでくれた方に失礼でしょ!』『悔しいって言っちゃダメだよ!』と、たくさん言われました」
 
「その時に改めて(大賞の)5人の中に入るための力量だけじゃなくて、精神的な部分も自分は備わっていなかったなと思いました。レースクイーンとしてスポンサー様のイメージを崩さないために、自分自身がもっとしっかりしないといけないなと思いました」
 
「だから3年目は、もう少し完璧な状態でレースクイーン大賞を目指そうと心に決めました」
 
 そう決意して挑んだレースクイーン3年目。中村さんは、KOBELCO GIRLSに就任する。実はTEAM SARD加入時には、こんなエピソードがあった。
 
「お父さんがF1がすごく好きなんです。昔、地上波でF1の中継をしていた時に、夜中に一緒に観ていました。ヘイキ(コバライネン)選手のことも応援していました。まさか、こうして傘をさせる日が来るとは思ってもみませんでしたね!」
 
「だからSARDのレースクイーンに決まった時は、真っ先にお父さんに報告しなきゃ!ってなりました。お父さんもサーキットに来てくれて、ヘイキ選手に傘をさす姿を見て喜んでくれていたので、よかったです」
 
「あとは……SARDのレースクイーンなので大きな声では言えないんですが……(苦笑)。ジェンソン・バトン選手も大好きで、当時(写真を)額に入れて飾っていたんですよ! だから、バトン選手がスーパーGTに来た時もすごくビックリしました。改めてレースクイーンをやっていて、良かったなと思いましたね」
 
 KOBELCO GIRLSとして活動した中村さんは、名門SARDのアットホームなチームの雰囲気にも影響され、次第に“自分のため”から“チームのため”という意識が強くなっていく。
 
「フレエンにいた時の2年間は、自分のことでいっぱいいっぱいだったんですけど、SARDに来てからは『チームを応援したい』『チームのために何かをしたい』という気持ちが強くなりました」
 
 だから、サーキットでSARDのピットシャツを着てくれる人気にしたいなと思いましたし、自分が広告塔になるわけだから、もっとしっかりしなきゃなと強く思うようになりました」
 
「そこで、けっこう変わりました。ちょうどSARDに入った年が、レースクイーンに対する考え方が大きく変わったタイミングでしたね」
 
「同じSARDのレースクイーンだったまっち(清瀬まちさん)と、こっとん(はらことはさん)にも、すごく助けてもらいました。レースクイーン3年目なのに、レースのことが全然わかっていませんでした」
 
「それこそ『セーフティカーって、何?』という状態で、ふたりに良く質問していたんですけど、(無知なことを)一切笑うことはなく、すごく丁寧に答えてくれました。だから、3年目は“みんな仲間”という感じが強かったです」
 
「ふたりのおかげで、どんどんレースにのめり込んで、より力を入れて応援するようになって、39号車が優勝した時は、毎回大号泣でしたね(笑)」
 
 この2019年には、目標としていた日本レースクイーン大賞を受賞し、テレビ東京賞にも選ばれた中村さん。もちろん、彼女がデビューした時から望んでいた結果だったのだが、彼女の心の中は次なる目標である“チームへの恩返し”のための行動が始まっていた。それが、レースクイーンコスチュームの人気投票である日本レースクイーン大賞コスチューム部門でのSARD初戴冠だ。
 
「SARDがコスチュームグランプリを一度も獲ったことがないと知っていました。長い歴史があって有名なレースクイーンさんが何人も務めているのに、グランプリを獲ったことがなかったから“絶対に獲りたい!”と思って、みんなで頑張りました」
 
「私はSARDに入った1年目の時に体調不良で、十分に業務ができない時があったんですけど、それでも2年目の継続をいただいて……仲間として私のことを選んで使ってくれていたので、このチームに何としても恩返しがしたいと常に思っていました」
 
 その想いが形となり、KOBELCO GIRLS/SARDイメージガールは、2020年の日本レースクイーン大賞コスチューム部門で見事グランプリを獲得する。
 
コスチューム部門グランプリを獲得し涙を流す中村比菜チャン

コスチューム部門グランプリを獲得し涙を流す中村比菜チャン


 
「やっぱりコスチュームグランプリを獲ると、そのチームのレースクイーンになりたいと思う子が増えるんですよね。女の子にもSARDの良さをもっと伝えられたらなと思って、頑張りました。実際にSARDのレースクイーンになりたいなと思ってくれる子が増えてくれれば嬉しいです」
 
「最初は、もっと他のチームのレースクイーンも興味がありましたが、いざSARDに入ってから、このチーム以外に考えられなくなりました」
 
「フレエンの時にスポンサーさんが『みんなに人気者になってほしい』と言ってくれなかったら、賞を獲ることができなかったと思いますし、SARDに入ることもできなかったと思います。だから、フレエンの時にお世話になった皆さんには、とても感謝しています」
 
「今はコロナ禍で、ファンの皆さんに直接会えないですけど、SARDのピットシャツを着てくれたり、帽子とかアイテムを身につけて応援してくれる方がすごく増えたと思います。本当に嬉しいですし、頑張って良かったなと思いました」
 
“自分のため”から“チームのため”に……。常に強い想いを胸に日々奮闘してきた中村さん。時にはうまくいかず悔しい思いをすることも少なくなかったが、最後はチームに大きく貢献する存在となっていた。そのことを自慢する様子もなく、謙虚に語ってくれていたが、その表情からは少し誇らしげな雰囲気を感じ取ることができた。
 
 
■2021コスチュームギャラリー/中村比菜

 
 
■2021レースクイーンインタビュー
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